2005/01/17

風雲千早城(377)

今日も農耕的に仕事をした。

●昨日は一日で「280」ものアクセスを記録した。
 一体何があったのだろう。

●朝一番に「伝奇城」の執筆者紹介・あとがき対談の原稿を送信する。
 今回お世話になった諸先生方にお礼のメールを出す。

●親友より電話。
 くつろいで話す。
 やはり古くからの親友というものは良い。
 気兼ねなく話が出来る。

●さて、そこでお約束通り、トリノ在住の幻想作家、
davide-1s
 ダヴィデ・マーナ氏の短編をご紹介しよう。
 その名も、「ヒキガエル男の花嫁」。
 当然、パロディカルなショートショートである。
 まずはお楽しみください。

      ***********************************

  「ヒキガエル男の花嫁」

         ダヴィデ・マーナ
         マッシモ・スマレ訳


 独白(モノローグ)

 もちろん、彼は悪いことなんてしなかったわ。
 まさか!
 どうやって?!
 いや、勘違いをしないで。あたし、いい子なんだから。学校にちゃんと通ったの。てか、ちょっと通ったことがあるんだけど……そうして、カイマン・チームのクォーターバックだったビッフ・ブラッドショと2、3度くらいデートしちゃったし。だから、男がどのくらい、やらしいものか、知っているわけ。
 そう、デートよ。デートって分かるよね。
 ビッフがあの馬鹿のシャルロットと付き合い始める前に。
 それで、彼は悪いことなんか全然しなかった。新しいブラジェールを引き裂いたこと以外に……ええ、ブラジャのことなの。
 ちょっと生臭かったけど。
 まあ、それを別にすれば、やっぱり、男の子につかまれて柳林に引っ張られるだけだった。もう言ったけど、初めてじゃなかったね。
 実に、クリトゥス君は、意外に優しかったわよ。
 ビッフとのデートのときね、沢山のストッキングが伝線してたのに!
 そうして、ビッフの従兄弟のバックとも出かけて、バックはあたしのブラウスのボタンを一個ずつ噛んで吐き出す癖があって……後で、ブラウスにそれらを再び縫って付けるのはとってもとっても面倒くさかった!
 えーと、水カキのある手だけど、クリトゥス君は付き合った男の子たちより上手いわよ!いや、大勢ではなかったけど、2人だけ。
 3人。
 まあ、とにかく5人以上ではなかったの。
 話題を変えないでよー。
 ごめんなさい。でも、上手く行かなくて全然あたしのせいじゃない。
 あたし、家の部屋で予定通りにラジオを聞いてたね。その瞬間、クリトゥス君は窓からカッと入って自分を鷲づかみ にした。怖がらせないようにあまりに高く悲鳴を上げなかったし、彼が垣を飛び越えたときに全然抵抗しなかった の。柳の間にいたときにも、抵抗をしなかったわよ。
 それどころか、誰も来なくってクリトゥス君がとっても困惑してたから懸命にくつろいだ雰囲気を作ろうともした、このあたしは。
 オドオドさせたか?
 あたし?
 良く聞いてよ、先生。協定は、あたしはその馬鹿な魚男の注意を引き付けて先生は30ドルをくれるんじゃなかったのか?では、彼をビクビクさせる訳があるものか?ちょっとだけ親しくしていたとき、彼が逃げて行った理由は、網と睡眠薬の弾の銃を持ってた先生のアシスタントたちは藪で道に迷っててプランを台無しにしたからこそ!
 ねー、展示用のご自分の魚男を捕まえるようにまた罠を仕掛けたければ、では、今度、値段は2倍になるのよ。
 ところで、先生、タバコをくれない?

(了)

ダーヴィデ・マーナ
トリノ、1/2005
翻訳:マッシモ・スマレ

       ****************************

●さてと、こっちも「伝奇城」が手を離れたので、「白凰坊」を大急ぎで仕上げなくては。
 今度のは、白凰坊v.s.信長という構想なのだ。しかも、森蘭丸が五人も出てくるのだ。さあ、どんなストーリーになるでしょう。それは神のみぞ知るなのだ。

●業務連絡。
 稲葉さん、結構な品をありがとうございました。
 井上さん、「1001秒の恐怖映画」(東京創元社)、戴いております。
 毎晩寝る前に、愉しみながら読んでます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/11/22

風雲千早城(321)

今日も農耕的に仕事をした。

●午前中は調べ物。
 昼食の後、池袋に散歩。
 風水ネコの(健康運編)と(家族・愛情運編)を買ってくる。
 帰宅後、電話で早川書房のA部氏と、メールで幻冬舎コミックスのI藤編集長と打ち合わせ。

●さて。──
 ラヴクラフトの作品を読んでいると、いわゆる邪神名・土地の名前・怪物名・魔術書名の他に、ある特定の人物名が何度も繰り返し登場するのに気がつきます。多くはランドルフ・カーターのような作者の分身なのですが、たまにネフレン・カーのような古代エジプトの人物名と遭遇したりすると、「ああ。これも架空の名前なのだな」と納得して読み進めるのが常でしょう。
 ニトクリスも、そんな「偽史上の人物」のひとりでした。
 ……少なくとも、わたしは、そう思っていたのですが……。

     ****************************

 「ニトクリス考」への覚書
          竹岡 啓

 特に理由があったというわけでもないのですが、「アウトサイダー」や「ファラオと共に幽閉されて」に言及がある女王ニトクリスのことを私はちょっと調べておりました。ひどく退屈な話かもしれませんが、少し書かせていただきます。

 皆さんはとうに御存じかもしれませんが、史実のニトクリスは第6王朝末期のエジプトを統治したとされています。マネトンの『エジプト史』やトリノ王名表には名前が載っていますが、彼女が実在したという考古学的な証拠はなく、いささか謎めいた存在です。

ニトクリスは金髪の美女だったと伝えられており、「いかなる男性よりも雄々しく、いかなる女性よりも美しかった」とマネトンは述べています。また、彼女がナイル川の水で兄弟の敵を溺死させてから自害したことがヘロドトスの『歴史』
に書いてあります。『歴史』第2巻第100節(岩波文庫の上巻220ページ)には次のように記されています。

 ------------------------------------------------------------------------
 祭司たちは一巻の巻物を開き、それによってミン以後の330人の王の名を次々に挙げた。このおびただしい数に上る世代にわたって、18人はエチオピア人で、ただ一人だけ生粋のエジプト人の女性がおり、他はすべてエジプト人の男子である。この王位にあった女性の名は、奇しくもかのバビロンの女王と同じくニトクリスといった。

 祭司たちの話では、この女王は兄弟の仇討をしたという。彼女の兄弟はエジプトの王であったが、エジプト人は彼を殺し王位をニトクリスに委ねたのであった。
 ところが彼女はその兄弟の仇を討つために、多数のエジプト人を騙し討ちにして殺したというのである。彼女は巨大な地下室を造り、表向きはその落成式を祝うと称し、内心実は別のことを企んでいた。エジプト人の中でも兄弟の殺害に共謀してもっとも罪の重いことのわかっていたものたちを招き、多数の客を歓待したのであるが、宴たけなわのとき秘密に作られた大きな管から河の水を流し込んだという。この女王に関する祭司たちの話はこれだけであるが、このほかにひとつだけ付け加えたのは、女王は事をし終えると、報復を免れるために、自ら灰の詰まった部屋に身を投じたとのことだった。

  ------------------------------------------------------------------------

 灰とありますが、実際には熾火でしょう。焼身自殺したのではなく、一酸化炭素中毒によって死んだものと思われます。

 このニトクリスがなぜラヴクラフトの作品に出てくるのでしょうか? ラヴクラフトは1919年にボストンでダンセイニ卿の講演を聴いていますが、そのときダンセイニは自作の戯曲「女王の敵」を朗読したそうです。

 ラインハート=クライナーに宛てた1919年11月9日付の手紙でラヴクラフトはそのことを報告し、「女王の敵」はヘロドトスの『歴史』に出てくるニトクリスの物語に基づいた作品だろうと指摘しています。1921年に執筆された「アウトサイダー」にニトクリスへの言及があるのは、ラヴクラフトのダンセイニに対する敬意の表われではないでしょうか。

 ところで、テネシー・ウィリアムズの「ニトクリスの復讐」という、きわめて初期の作品が1928年にウィアード・テールズに発表されています。

 わたしは、この「ニトクリスの復讐」を読んでみたいのですが、なかなか望みが叶いません。『ウィアードテールズ』を所蔵していた地元の県立図書館が廃館になってしまったのは実に忌々しいことでして、私は埼玉県の行政を大いに恨んだものです。
 それはともかく、「ファラオと共に幽閉されて」はウィアードテイルズの1924年5月号に、「アウトサイダー」は同じく1926年4月号に掲載されましたから、テネシー・ウィリアムスがそれらの作品を読んでいた可能性は考えられます。
 ですが、ウィリアムスが「ファラオと共に幽閉されて」や「アウトサイダー」を読んでいたかどうかにかかわらず、「ニトクリスの復讐」は、ラヴクラフトの作品よりも史実に基づいたものだろうと思います。

 ところで、ラヴクラフトがハリー=フーディニのために書いてやった「ファラオと共に幽閉されて」でニトクリスは「食屍鬼の女王」と呼ばれていますが、ヘロドトスやマネトンが伝えるニトクリスの物語から私が思い浮かべるのは、誇り高
く行動力のある女性ではあっても、食屍鬼の女王と謗られなければならないような悪女ではありません。

 ここで思い出されるのがダンセイニの「女王の敵」の女王です。自分の政敵(兄弟の仇ではない)をことごとく溺死させて「今夜はよく眠れそうじゃ」とうそぶく彼女の姿はまさに「食屍鬼の女王」そのものなのです。ですから、やはりラヴクラフトは「女王の敵」を念頭に置きながら自分の作品でニトクリスに言及した
のではないでしょうか。

(2004年11月21日)

●竹岡さん、例によって知的好奇心を刺激する考察を、有難うございました。
 さて、次はイタリアの幻想小説をどうぞ。
 我等が友、マッシモ・スマレ氏の登場です。


『白と黒の別れ』
作・マッシモ・スマレ

fotomia3.jpg
 二人の最後の会いは、暗い濃い霧に覆われていた。遥かな戦場は彼たちの死を熱望していたらしい。恐ろしい、血まみれの死を。下方の緑の球体に隠れている猿(モンキー)の中の最も才能あふれたヤツさえ一切想像出来ないくらいの残酷な死を。猿よ、主の色あせたイメージで、時の生まれから続いて来た争いの主要な原因……。
 とにかく、白(ホワイト)と黒(ブラック)の双方が彼等の運命を承知していた。
 二人は敵だった。
 一人の幟(のぼり)は、稲光(いなびかり)ほど明るく、光の光栄に包まれて天にはためいていた。
 もう一人のは逆に深夜ほど暗く、無限の誇りで織り込まれたものだった。
 自分たちの軍団がもう直ぐ互いに飛び掛かり合って激烈な闘争に向かうことを全く気にせずに、二人は契りあい、静かにと横たわっていた。
「これで終わりだろうか? もう、貴方を抱くことはないでしょう」
「この日が来るのを遥かな昔から知っていたのじゃないか」と黒が答えた。
「ええ。しかし……」
「何を望んでいたんだ。今まで一緒にいられてよかった、誰にも発見されなくて幸いだった! 俺たちが普通の戦士じゃないことを忘れてしまったのか? 俺たちは、無数の歩兵隊を指揮しているんだぞ!」
 軍の、激した騒音は彼たちのところまでつき、だんだん増えて行った。戦士たちは天で陣形の配置を完成するところだった。
 白は黒を強く抱きしめ、短い、黒髪の頭を相手の胸に置いた。
 ため息をついた。
「悔しくて仕方がない。決意した遠い日に、お前は俺の王のもとにくだるべきだったんだ。そうしてたなら、今、互いに戦ったり、人目を忍んで愛し合う必要などなかったのに……」と黒は言った。
「やめろ!わたしにそんな選択ができなかったことは知ってるはずだ。貴方たちは、反逆者、裏切り者なんだから……。やめろ。もう、そんなことは話すな。これから、武器を取って、どちらが正しいか決めるのだ。それまで──この二人でいられる最後の時のみたっぷり楽しもう!」
「そうは言っても、お前が俺たちの仲間だったら、轡(くつわ)を並べて戦(いくさ)に出られたものを! お前の琥珀の槍と、俺の紅玉の剣をふるって敵を皆殺しに出来たものを……負けて共に忘却されたものを……共にに勝利の美酒で酔えたものを!」
「今、悔いるのは、貴方ではないだろう?」と白がくすくす笑った。
 黒は、真実の深い愛を湛えたた謎めいた瞳を、澄み切った微笑みを浮かべた相手に向けた。黒の強い腕が白を強く抱きしめた。その突然の動きに、彼の瞳は茶色の髪の毛に隠された。戦場に出る前に髪を結べばいいものを……。彼の軍団の戦士たちには、長い髪が邪魔で、犬死にした者が何人もいた。だが、長髪は彼らの習慣だった。髪を長くするのは、彼らの野生的な、獣じみた姿をもっと恐ろしくするためだったのである。敵を怖がらせるために……特に、あの馬鹿な“人間”という猿どもを怖がらせるために! ─―何ゆえに自分たちの王と、白の主が猿をそんなに大事にするのか、全く理解できなかった―─。戦争が始まった最初の理由は、嫉妬のみだったと、言われていた……だが、原因はもっと深かったと思われる。彼の王は、主に次いで、宇宙で最も崇高な存在だった……。彼の王は数えきれない時代のあいだ、一度も主に反対したり、異議を唱えたりしなかった。それどころか、誰よりも主を崇めていたのであった。……彼が主に対抗したのは、猿が到来した後からのことだった!
「何を考えている?」と白が尋ねた。
「何でもない。きっと疲れているんだ。この争いの原因も忘れかけたし……」
「はっはっは!信じられない。お前には、忘れることが無理なのだ」
「しかし、忘れてしまいたい」
「いいだろう、俺とお前の二人で、生気を失った思い出になるまで、ずっとここにいたいのだな。だが、それは朝日がと共に消えてしまう儚い夢と同じ、儚い希望というものだ」と悲しげに答えた。細い指の手で相手の、真珠色の二つの角(つの)らしき瘤の出た、長い茶色の髪のこめかみを撫でた。
「髪を束ねる方がいいのではないだろう?戦(いくさ)で髪を束ねぬのは危険だ。お前も知っているだろう。なのに、どうして、こんな野蛮な格好を、まだしているんだ」
「だって、その恐ろしい姿で貴方たちを驚愕させるためじゃないか」
「恐ろしい姿だと?」と、白が微笑んだ。「まあ、初めは確かに驚いた。だが、もうすっかり慣れてしまった。あの王のせいで、お前たちは不条理なことをばかりさせられるんだな!」
「またか。王と主の話はしないと誓ってたじゃないか。話せば必ず二人は、きっと喧嘩をしてしまう。今は喧嘩したくないんだ。……この最期の逢瀬では……」
 軍隊ラッパの高く鳴る音がした! 偉大な合戦の始まる合図だった。二人が一緒に過ごせる時間はもう終わりだった。
 情熱な接吻を交わしてから、白と黒は屈強な裸身の上にゆっくりと鎧を着た。白の鎧は、ダイヤをちりばめた閃光の銀で作られ、鎧の表と裏は青の豪華なバンドで繋がられていた。黒の鎧は、光沢を出した青銅だったが、細かい絵が彫刻された鋼板は太い紫色の紐で縅(おど)されていた。二人は、互いに立ち向かい、武器を握って挨拶し合うと、武器をさっと持ち上げた。別れにあたって二人の口から出る言葉は一つもなかった。ただ、二人のの瞳には言い表せない感情が秘めてあった……。
 二人は互いに背を向けると、翼を広げた。
 全く違う翼だった。……鳩の翼と蝙蝠の翼であった。……二人は果てしない天空のそれぞれ反対の方角へ素早く飛び出した。
 それは白と黒の別れだった。天使と悪魔の別れだった……。
                                  (了)
2004年9月 作品


●スマレさん、有難うございました。
 さて、それでは、わたしは本日の仕事を再開いたします。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/10/11

風雲千早城(281)

今日も農耕的に仕事をした。

●昨日はとても頑張ったので、自分に対するご褒美として早く寝た。
 午前10時半まで眠り続けた。
 コーヒーをタップリ呑んで半日、ボーッとしていた。
 午後も昼寝を1時間半。脳味噌が疲れていたようだ。
 だいぶ楽になった。

●さて。
 ここにイタリアの気鋭幻想作家ダーヴィデ・マーナ氏の楽しいエッセイをご紹介できることは、大いなる喜びであると共に誇りであります。
 どうか貴方もマーナ氏と共に魔法の町トリノをご散策ください。
 マッシモ・スマレ氏から写真とキャプションもいただきました。
 きっと貴方の散策は、かつてない愉しいものとなるでしょう。
 では……。

 『魔法の町トリノ』 第1回
      
      文/ダーヴィデ・マーナ (訳/マッシモ・スマレ) 写真と解説/マッシモ・スマレ


 さて、ファイルを開けてみよう。
 1962年11月1日の夜、体中刺青で覆われた男が、たまたま濃いブルーのFIAT 500に轢かれて死んだ。フィアットの運転手の名はマリア・テレーザ・ガイ(Maria Teresa Gay)、若い女性である。彼女の話では、男が車の前に急に飛び出してきたので、彼を避けることなどまったく出来なかったという。男の身体に彫られた刺青は、おかしな怪獣やセクシーな女性ばかりで、文字は一つのみ、ただ、……“M. T. Gay ? 1.11.62”……。
 なんと彼を轢いた女性運転手の名前と事故日ではないか!
 不思議なことに刺青は1940年~1950年頃にオーストラリアで彫られたものだったらしい……。

 このような不思議な事件が、トリノでは次から次へ起こる。そして不思議な事件は昔から、ずっと続いてきたと言われている。だとしたら、1845年に「トリノが世界中の最も退屈な町なのだ!」と断言したフローベールは全く間違っていたのではないだろうか?
 誰もが慎み深く、かつ静かな(現在益々カオス状態になりつつある交通を別にすれば)町なので、トリノでは誰もが自分の秘密を完璧に守ることが出来る。もっとも、最高に保護された秘密でも、この町では時間さえたてば、ねじれたり、変化した挙句、いずれ暴かれてしまうのだが。
 そういえばノストラダムスとニーチェもここで眠ったことがある。この古い町は、彼等の脳に如何なる奇妙な夢を見せたのだろうか?

 トリノは―─トリノ市議会が多くの有害な工事を実行したにもかかわらず―─ローマ時代の設計図がそのままに残り、道はあたかもチェスボードのように直角に交差している。
 紀元前1世紀に古代ローマ人がこの辺に至った時、いま私が座っている場所に、ケルト系由来と思われるタウリ(Tauri)(2)の地域的な部族の村があった。ある研究者たちによると、タウリ部族は古代エジプト人と、未だ詳しく解明されていない内容の商売をしていた。エジプト人は約500年前、地母神イシスに捧げられた神秘的かつ不可思議な品〔オブジェクト〕を探して放浪した挙句、この場所に辿り着いたと伝えられている。
 彼たちはその〔オブジェクト〕を見つけたのだろうか?
 それは誰も分からない。
 確かに、タウリという言葉は古いパピルス古文書にも記述され、古代ローマ人自身、大昔に太陽の馬車が(太陽神ラーか?それともユーフォー?)ポー川に落ちた、と語っていた。それでポー川の古い名前をエリダノ(Eridano)─―もともと太陽神の息子の名である。太陽の馬車が落ちたとき、彼が乗ってた―─と呼ぶのだという。
 むろん、古代エジプトに関わる史跡は、現在も、町に点在している。―18世紀、サヴォイア家は特にエジプト関係の物品の蒐集に熱心になり、やがて、カイロのエジプト博物館についで世界で最も大きな古代エジプト博物館であるトリノエジプト博物館(Museo egizio)を創立したのだった。

 トリノエジプト博物館は、町の中心にに位置しており、秘教主義者や神秘学者にこよなく愛されている場所である。博物館に─―幽霊を信じるならば─―幽霊が数多く出現するばかりではなく、不思議な力を持っている“モノ“も大量に保存されているからである。
 昔、ホールで観客を迎えていた牛のアピ神の像は、好意的なエネルギーの泉だそうだ。いわば、町の厄除けといったところか。ちなみにトリノという町名は、実際、toro(トーロ=牛)という単語が起こりだが、その動物は町のトーテム・シンボルでもあることを忘れてはいけない……。
 しかし、同じ博物館にあるセトという破壊神の像は、そのアピと敵対する存在である。つまり、二つの神像は、善悪のバランスを保つ役目を果たしているようだ。
 もしかするとアピとセトは、古代ローマ時代の町の設計図をチェスボードにして、彼等のゲームを愉しんでいるのかも知れない。
 では、神々のチェスの駒は誰なのか?
 死んだ刺青の男は、チェス試合では、一個の歩兵(ポーン)だったのではないのだろうか?
 では、20世紀初めに、トリノで子供を誘拐したり、殺害した“牧羊神(ファウヌス)の足をもった獣”はなんだったのか? ジャック・ザ・リッパーがロンドンで暗躍していたのと同時代、1889年の秋に、トリノで3人の娼婦の腹を裂いた謎の殺人鬼も、神々のチェスの駒の一つだっただろうか?
 そんなチェスボートなど存在しない、というのに、神々の残酷な試合は今後も繰り返されることだろう。

 古代エジプト博物館から1キロ弱離れた場所の地下数百メートルには、古代ローマ軍の指揮官が崇拝した聖なる太陽神ミトラの神殿があるはずだ。同じエリアには、同時代のかまど女神ヴェスタの神殿址も、中世のベネネディクト派修道院址も埋まっているといわれている。
 町の下に隠された、遙か昔に失われたそれらの建物は、トリノ全域を駆け巡る大量の地下道―─古代ローマ時代に作られた下水道、17世紀の防衛トンネル、王家の秘密通路と、ムッソリーニが作り始めさせて4キロで中止された地下鉄の残り―─の中心だと言われている。
 それらは、『オペラ座の怪人』でよく知れたパリの地下道ほど有名ではない。しかし、勇ましい探検家ならばトリノの、網の目のようにめぐらされた地下通路を伝って、外に一歩も出ることなく、町を隅から隅まで渡ることが出来ることだろう。地下では埋まった神殿、埋もれた建物などが互いに繋がり合っているばかりか、多くの意外な秘密出口が王宮(Palazzo Reale)、古代エジプト博物館(むろん!)、その隣の科学アカデミア宮殿(Accademia delle Scienze)、町のたくさんの館(やかた)や領主の住居に隠されている、と伝えられる。
 パリと違って、トリノでは地下道を見物するのは不可能なのだ(3)。それでも、地下道の調査は砲兵隊の将官であったグイド・アモレッティ(Guido Amoretti)大将の指揮する検査団によって50年前から行われている。

 再びファイルのページにさっと目を通してみよう。
 もう一つの謎が出てくる。

 70年代の初め、トリノの北にある庶民市街に住んでいた子供には、目に見えない友達がいた。その友達の名を“サタン”といった……。
 “サタン”は、念力で好きなだけ家具を移動させる力があり、テレビのチャンネルをひねることが出来、いたずらで子供の体を噛んだり、爪でつかんだりしていた。子供は、心配する母親を喜ばせようと、「友達には、もう会わないよ!」と言い出した。
 その時、子供の胸が何者かのナイフで突かれたのだ。
 何度となく!
 ヒステリー症か?
 子供は単に自分で自分を傷つけたのだろうか?
 母親はショックで精神病院に入院してしまった……。

 多くの研究者は、町の“暗い心”がスタトゥート広場(Piazza Statuto)だと認めている。広場では、全世界の“陰極”がほとばしっている。まるで、フランス=イタリアを繋ぐフレジュス鉄道トンネル記念モニュメントのすぐ近くの噴水のように、激しくほとばっているのだ。たとえば、大勢の市民はスタトゥート映画館(Cinema Statuto)の悲劇な出来事―─1983年に不注意と愚行の衝撃的な複合事故によって64人も亡くなった大火事―─を未だにはっきりと覚えている。
 悪はスタトゥート広場に広まるのだ!
 その悪を利用するのは、黒いチュニカを着てらんちき騒ぎの祭を行なう悪魔の崇拝者だ。彼等は町のどこにもいると噂される。
 とにかく、トリノの有名なミステリー作家C・フルッテロとF・ルチェンティーニ(C. Fruttero & F. Lucentini)(4)が言った通り、悪魔崇拝者を知っている人物に会うのは難しいし、悪魔崇拝者を知っている人物を知っている誰かと会うのさえ難しい。要するに、トリノ社会の大事なエレメントだと囁かれながら、悪魔崇拝者の存在は意外にまったく目立たないのである。
 現象面だけを見るならば、新聞に出る記事のようにまったくドラマチックな要素など有り得ないのだ。目に付く悪魔崇拝者の大部分は退屈な日常に飽きた、単に変態的なセックスがしてみたいお金持ち連中で、彼等が徘徊するところなど、概ね、本物のサタニストが潜む暗くも危険な芯の、単なる外側のみなのである。
 トリノは、全ヨーロッパで最も祓魔師(エクソシスト)―ヴァチカンから派遣された、悪魔祓いが専門である神父―が多く活躍する町であるが、その理由は、真のサタニストが潜むからなのだろうか?
 神秘の専門家によると、スタトゥート広場に潜む“闇”に対して、正邪のバランスを取っているのは、なんとあの伝説の聖杯だという! 聖杯は──光と精神の救いの泉なのだが──、トリノのどこかに隠されているというのだ。聖杯を見つけるためヒントはコンソラータ教会(Chiesa della Consolata)に隠されているはずだ。それから、町と教会のとなりにある、テンプル騎士団員が建てた建物のあいだまでヒントを追わなければならないのだそうだ。
 しかし、今まで誰も聖杯が見つからなかったのはいうまでも無い。
 神々のチェスボードで行なわれる、もう一つの試合……。
 それとも、全て、同じゲームだったのだろうか?

 魔法の町だから、魔法使いもいるのでは? と聞かれたら、きっぱりと応えよう。いかにもトリノに住む魔法使いは非常に多く、おそらく謎に包まれた悪魔崇拝者より、ずっと簡単に会える。
 トランプ占い師、易者、霊媒、コーヒーかす占い師……魔法使いの“カタログ”にはキリが無い! 
 トリノで最も名が知れた魔法使いは、ガブリエル・ロッチザーノ(Gabriel Loccisano)だろう。テレビで馬鹿なことをやったり、アホな顔をして文法上の誤りの多いイタリア語を喋ったりしながらも、大人気のスターとなってしまった。更に、彼の“最高”のライバルである神秘主義者のミスター・ジョセフ(Mr. Joseph)。彼は、もともと水道工事屋で、大勢の人々には未だに「水道屋のペッピーノ」(5)という渾名で知られている……結局、トリノの現在の魔法使いたるや、まったく恥ずかしく、嘆かわしい有様である。
 まるで見世物小屋だ!
 昔、この町で魔術を行なったはアウグスト・アドルフォ・ロル(Augusto Adolfo Rol)だったが、彼は道化などではなかった。素晴らしい能力に恵まれ、魔法使いや慧眼や神秘主義者(ひょっとして、単に非常に巧妙な手品師かつ社会心理学者だったのか?)で、ロルは芸術者、監督、政治家たちから信用をかち得たのだった。ペテンであることを何度も証明しようとした超能力研究者たちは負けて、無言で町から退いていった。
 彼の可笑しな後継者と違って、ロルはお客からお金など一切もらわなく、真の紳士だった。

 不可思議なファイルから取り出した他のエピソード。
 1794年、上品で美男のビアンドラ(Biandra)中尉(彼も砲兵隊の士官だった!)は、町の真ん中のエレガントなカフェで、美しい若い女性と知り合った。彼女は、背が高く、黒髪、エキゾチックな発音の喋り方で、「わたくしの家まで送っていただけません?」 と中尉に言った。
 断れるものか?
 瞬く間に二人は恋人になった。ただし、それは数ヶ月と続かなかった。ビアンドラは女性の真の姿をと知ってしまったのだ。まさか、彼女が二年前に死んだバルバラ・ベロセルスキ(Barbara Beloselski)姫だったとは!恐らく、ビアンドラ中尉は、ショックで一時的にインポになったことだろう……。
 愛人たちは、2度と会うことができなかった。
 今でも幾人かの人々が、中心街の店で、男を虜にしようとするバルバラ姫を最近目撃したと真面目に述べている。

 トリノは幽霊で一杯である。
 エジプト博物館の通路を痙攣性の動きで歩く霊。
 それからあまり遠くない場所―─例えば、綺麗な菓子店バラッティ(Pasticceria Baratti)かカフェ・ムラッサーノ(Caffe’ Mulassano)―─でバルバラ・ベロセルスキ姫は永遠の寂しさを忘れさせてくれる男を探しているだろう。
 カステッロ広場(Piazza Castello)は町の中心にある。そこに聳えるマダーマ宮殿(Palazzo Madama)の歓迎の間では、夜警が決まった夜に、ここで行なわれる怪しくも盛大な──いつも変わらぬ舞踏会を、時々じゃましてしまうことがある。別な夜には、古えの騎士が馬に跨って、大きな階段を走って、消える。
 500メートルほど離れたバローロ宮殿(Palazzo Barolo)では、18世紀に亡くなった娘が蝋燭を手に部屋から部屋へとさすらう。彼女は、館(やかた)の横暴な主人の不幸な娘なのだという。ゴーストハンターは、窓越しに、娘の蝋燭の光が見られはしまいかと希望を抱いて、寒い外側で一晩中過ごすのだ。
 さほど遠くないホテル・プリンチピ・ディ・ピエモンテェ(Hotel Principi di Piemonte)の1階にはナチの尋問室があった。そこではナチス・ドイツの秘密警察、ゲシュタポに殺された人の亡霊が魂の平和を未だに求めてうろついている。
 意地悪な死霊はホテル・インギルテッラ(Hotel Inghilterra)の1階にも憑いている。
 ガリバルディ通り(Via Garibaldi)辺―─まさしく“牧羊神の足の獣”が恐ろしい活躍をした近くの場所だ─―の年取った洗濯女から、1851年の大火事で亡くなった夫婦、現在トリノのナイト・ライフの中心となったデッレ・エルベ広場(Piazza delle erbe)で自殺した人までの亡霊が22種類以上もある……。

 不可思議な話はきりが無い。
 10年間、気のいいおかみさんと定期的に連絡していた宇宙人のこと(ケネディー大統領の殺害企画について殺人が起こる前に彼女に話してあげたそうだ!)、コンスタンティヌス大帝が燃える十字架―In Hoc Signo Vinces(6)―の幻を見た場所からさして遠くないムスィネ(Musine’)山にUFOが着陸すること。
 謎の東洋人のフォトロマン・モデルをリーダーとして、アブサンを飲んでいたカルトは70年代にトリノから追い出されて、大きな集団自殺で中部アメリカで大変な集団自殺事件を起こしたとか……。
 トリノの丘の忍者もいる。彼等は、もしかして東方の古い伝統の後継者なのだろうか? それともジャンクなチャンバラ・カンフー映画を観すぎた、単なる馬鹿なオタクの集まりなのだろうか? 忍者は80年代に、スペルガ(Superga)行きの道(バカップルが最後に行きつく場所)で、強盗に脅されていたカップルを助けたことがある。彼等は言ったそうだ。
「ご心配なさるな。正義の味方、忍者でございますー!」と……。
 また、OTA会(7)の待ち合わせ場所、ソルフェリーノ広場(Piazza Solferino)に「四季の噴水」という噴水がある(フリー・メーソン団員がテンプル騎士の黄金を使用して作ったそうだが)その形の均整には昔の錬金術の秘密が隠されているとの話だ……。

 町は―─トリノ市議会が命じられた多くの有害な工事にもかかわらず─―ローマ時代の設計図のままに残り、道路はまるで大きな蜘蛛の巣のように直角に交差している。
 全ての謎、悪魔、希望と恐怖は、何世紀ものあいだに、道や家や人間の作った大きな蜘蛛の巣に捕らえられたのだ。
 恐らくトリノに憑くのは亡霊ではないだろう。
 町の人々こそが、無理矢理、過去の亡霊を引き留めているのではなかろうか?
 確かなことは、ただひとつ。
 フローベールは、間違っていたのだ!

(了)

ダーヴィデ・マーナ
トリノ、10/8/2004
翻訳:マッシモ・スマレ

注記:

(1)トリノの魔法的なアスペクトについて板東眞砂子氏の「魔都トリノ」(『聖アントニオの舌』、角川文庫、2004)も読む価値がある面白いエッセイだ。

(2)恐らくもともとインド・ヨーロッパ語族の言葉(tauro=牛)で、「牛の民族」、「牛ほど強い力を持っている民族」と言う意味だろう。

(3)しかし、ピエトロ・ミッカ博物館(Museo Pietro Micca)に行けば少しでもその地下道が見られることがある。

(4)場面がトリノである代表作の『La donna della domenica』は、日本語にも翻訳された(C・フルッテロとF・ルチェンティーニ著、『日曜日の女』、上・下2冊、訳:千種堅、河出書房、1973)。1975年にその作品は映画化され、監督はルイジ・コメンチーニ氏、主人公はマルチェッロ・マストロヤンニ氏。

(5)ペッピーノ(Peppino)は、ジュゼッペ(Giuseppe)から出た愛称だが、英語ならばそのジュセッペはジョセフで、結局、「ミスター・ジョセフ」という芸名になった。

(6)ラテン語だが、意味は「この印にて勝利」なのだ。大帝が見た十字架の周りに書かれていた文字だった。

(7)Orientalisti Torinesi Anonimi(トリノ匿名東洋学者)。マーナ氏、スマレ氏を含めた6人の、東洋文化に興味があり、お喋りが好きな、とても小さいグループだ。

 〔写真と解説〕

-
Palazzo Madama 1

 カステッロ広場に聳えるマダーマ宮殿……デカイなー!長い間作り続けられた城だ
けに
まさに違う時代のスタイルのミクサーなんだ。その中のサロンで幽霊の舞踏会が
催されているって……。


-Palazzo Madama 2
 ある夜、亡霊の騎士は自分の愛馬に跨ってこの優雅な階段を走ると
言われている。「この国をもらった!」と叫ぶだろうかな?おっ、
サムライじゃないね。(笑)


- Baratti 1

 菓子店バラッティ……上品なお店だよ。美女の幽霊バルバラ・ベロセルスキ
姫はいないの?


- Baratti 2

 とりあえず、いないらしいね!


- Museo Egitto

 これは、トリノエジプト博物館の入り口だ(強そうな門!)。そのなか、ミイラと
棺、宝石と像のあいだに、牛神のアピと破壊神のセトは今も恐ろしいゲームを
しているかも?


- Porta Palatina

 では、これから『魔法の町トリノ』外伝の写真だよ―!パラティーナ門(Porta
Palatina)は、
現在残った唯一の古代ローマ時代の門なんだ(昔四つだったけど)。それもデカイ
な……。


- Chiesa mediovale

 聖ドメニコ教会(Chiesa di San Domenico)で、中世に作られたものなんだ!やっ
ぱ、トリノは
本当に古い町だぞ!


- Vetrate

 見て写真を撮らずにいられなかった……とても綺麗な、素晴らしい窓だ。


- Crocerossa
 古代エジプト博物館に向かった時、そばの広場になんと、救急車展示会が
あった!これは、二十世紀初めのもので、もちろん、馬に引かれていたね。

(写真と文/)マッシモ・スマレ

*なお、スマレ氏の翻訳は朝松が校訂・加筆いたしました。
 同様に写真の「解説」も朝松が編集いたしました。
 本文中の責任は、すべて朝松健にあります。
 ご注意・ご指摘・叱責等はすべて朝松あてにお送りください。

--------------------------------------------------------------------------------

●マーナさん、スマレさん、ありがとうございました。
 さて、わたしは、これから短編の後半を書き始めます。
 ではっ!!

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/09/28

風雲千早城(268)

今日も農耕的に仕事をした。

●「真田」は943枚まで完成。「第十之書」を送信する。残るは「閉巻」である。昨日の夕方会った祥伝社のI野さんはとうとうシニカルになってしまった。わたしの責任です……。なにしろ1千枚近くなってしまったんだものなあ。(完成して、ゲラに手を入れたら確実に1千枚になっているぞ。とほほほ…。今年はひょっとして「魔仏」と「真田」しか長編の仕事をしなかったことになるのではなかろうか)


●さて──。
 今日はお約束通り、イタリアの幻想作家ダヴィデ・マーナ氏のパロディ・ショート・ショートをご紹介しよう。作品は1920年代のアメリカのパルプマガジンによく載っていたホラー短編の体裁をとっている。1920年代の「ウィアード・テールズ」は、この手の小説がひしめいていたのだ。(けっして文学的な雑誌ではなく、むしろ今はなき『月刊小説』『小説春秋』のごとき、ブルーカラーの一時の娯楽のための雑誌だったのである)扇情的なホラー・ストーリーが展開されるかと固唾を呑んで読み進めば……。きっと貴方はマーナ氏の上手出し投げを食らっていることだろう。
 
 ちなみに作者のマーナ氏について御存知でない方のために──、

 ダーヴィデ・マーナ(1967年生まれ)。微小古生物学士号を得、翻訳者、英語教師(その上、プログラマー、コールセンター・オペレーター、ウェッブ・デザイナー、“人間案山子”など)の多彩な仕事を青年期より経験したが、現在、トリノ大学でフリーランス・微小古生物学士コンサルタントとしても働いている。マーナ氏は多くのRPG協会やlovecraftian clubのメンバーで、同時に「The Whisperer」、「The Black Seal」、「D20 Weekly」、「Delta Green:Countdown」 (Pagan Publishing, 1999)というアメリカ雑誌に記事をよく寄稿する。イタリアでは、LN-LibriNuovi誌の協力者で、その雑誌のため、SFに関わるエッセイを数多く執筆した。「web-portalepalaeontology.com.」の科学担当者でもある。英国のエリザベス一世時代文学や東洋文化に深い興味がある作家。代表作は:

- Non Solo Robot (Giganti) - La fantascienza nel fumetto e
nell'animazione Giapponese, Klaatu, 1993
- L'Impero Colpisce Ancora - Note per una bibliografia steampunk,
Klaatu, 1994
- In Memoriam - Peter Cushing, Klaatu, 1994 
 などがある。
 (文・マッシモ・スマレ)


●それでは、お楽しみください。マーナさん、作品をお願いします。
 (おっとブキミなBGMは皆さん、ご自分でご用意下さい)

  『呪われた沼のヒキガエル男』

 独白(モノローグ)

 なんと言えばいいのか、シェリフ。
 どうしてやったのかなんて、おれにも分からねえんだ!
 ひょっとすると、あれが、本能の命ずるまま、って奴だったのかもしれねえ。いや、従兄弟のジミー・ジョーの持っていた雑誌のせい……きっと、あの雑誌の刺激のせいだったんだ。
 だいたい、村あげて犬とか松明とか……あんなにまでして騒ぐことなんか、ぜんぜんなかったんだ……。
 本当に、おれ、何もやらなかった!悪いことは、一つもやらなかった。
 分かった、分かった。
 もう一度最初から話すよ。
 従兄弟のジミー・ジョーはあの雑誌を持ってた……どこで手に入れたか知らねえ。確かに古いもんだったな、ヘウェイ(※)の時の雑誌だっただろう? でよ、いい挿絵が載ってたんだ。おれにゃ字は読めないけど、面白そうな話にみえたし。
 表紙に、ほら、雑誌の最初のページのことだよ、絵があった。女を担いで柵を飛び越えてる、牙を生やした大きな動物みたいなもんの絵。
 ジミー・ジョーの話では、雑誌にゃそのケダモノと娘の話が載っているんだって。でも、あいつが、どうしてそんなこと知ってたか、分かんねえ。なにしろ、あいつだって頭がいいとは言えねえからなあ。
 なにしろ、おれ、その雑誌のことなんか、ずっと忘れちまってたんだ……やっぱよ、あれを見てから10年もたってたからじゃねえかな?で、とにかく、夕べ、水路を歩いてたのよ。デヴローん家(ち)のラジオを聴きに行ってたんだ。あの家(うち)の牧場は窓がいつも開(あ)いてて、ラジオをでっかい音量でかけてるから、歌とかいつも聴こえてくる。グレン・ミラーの曲とか、それからローン・レンジャーやザ・シャドーなんて番組がよ……。
 おれ、いつも、ラジオを聴きたくなると水路を歩くことにしてたんだ。
 ところが、夕べは、コオロギや、クラークスヴィルの祭に出た楽団のせいで、なんにも聴こえなかった!
 だから、家に近寄って行ったんだ。
 デヴローん家は犬を飼ってないんで、近くで聞けるんじゃねえか?と思ったのよ。
 それで、後ろの窓に回っていった。
 もちろんお嬢さんがいるなんて知らんかったよ!
 家の中を覗いた。
 娘が鏡の前でヘアブラシで自分の髪を整えてた。またいっぱいあるんだ、その髪が!娘の肌は小麦色してて。着ていたものは、胸にレースいっぱいの布切れと、それから変なパンツだけ。
 白いパンツだ……。
 あと、白い石鹸の匂いがしてた。娘の肌も白かった!
 おれはラジオを聴きながら暫く眺めてたんだ。娘はトミー・ドーシーの歌に合わして小声で歌ってた。眺めてるうちに、そう、そうしてるうちに……どうしてか分かんねえ……ちくしょう、きっと、その時、急に心に浮かんだ、従兄弟の雑誌のせいだ。 窓から部屋の中に入って、娘を強くつかんでいた! 2分後には、おれは娘を担いで、新しい畑のなかを走ってたんだ!
 まったく地獄に落ちたみたいだった!
 娘はすっげえ悲鳴をあげていた。大きな家の全部の電気はつけてあって、夜空は爆発してた花火でいっぱいだっ た。まるで世界の終わりみたいに!
 柵を飛び越えてバイユーまで逃げてった。
 逃げた時、多分あいつん家の案山子(かかし)を倒してただろう。
 なにもかも、めちゃくちゃになっていた!
 えっ!
 ゆ・る・せ・な・い・こ・う・さ・い…だって? ごめん、あんたが何のこと言ってるか、分かんねえんだ。なにしろ、おれ、学校に行ってなくてよ。
 あ、そうか! 
 あんた、おれが半魚人で、あの娘が人間だってことを、おれがちゃんと分かっていたかって聞いているのか?
 もちろん、分かってるってば!
 だからよ、シェリフ、おれが半魚人だから、今こうやって、あんたに自首して来たんじゃねえかよ?!

                                       
                                           (了)


(※)Huey P. Long (1893-1935)。1928年からのルイジアナの総監であり、公債を横取りすることによってThe KingfishともTinpot Napoleonと呼ばれていた。更に、彼の名前はその地方の百姓からHeweyとも発音されていた。1935年にアメリカの大統領に立候補したけれど、同年の9月8日に不明な事情で暗殺された。総監であった時、ルイジアナの最もひどい危機の時代であり、そちらで未だに「ヘウェイの時」は第1次世界大戦前の期間を指示するのに使われている言い方である。


ダーヴィデ・マーナ

トリノ、20/6/2004


翻訳:マッシモ・スマレ

     ***********************************

●次は、オーガスト・ダーレスの感動的な詩をご紹介しよう。


「挽歌 
   プロヴィデンスに春が……」

(ハワード=フィリップス=ラヴクラフトに捧げる)
オーガスト=ダーレス
                                竹岡 啓 訳   

 

 ハワード 大学の庭を下って66番地を過ぎ スワンポイントにも春は来ましたか?

 
 ここ田舎では 春は空から吹き降りてきます 南風が広まって 空中に春が満ちます
 池深く蛙が騒ぎ 空高い雲は
 氷の溶けた水面に映えます ああ ワキアカツグミの歌に 早々と現れた雨蛙の叫びに
 帽子のようなアラムの萼に いくたび心が躍ったことか!

 あなたは何年も前から御存じだった 今や彼らがこぞって私に告げるのは
 あなたが逝ってしまわれたということ 繁りつつある木を風が泣かせ
 梟が滑空していき 孤独な鷹が叫ぶ
 石と柳の葉が太陽を誘うところにも
 悲しみが木霊します ああ  大地も天空も何と哀しいことか
 ──風が 木が 泉の音が──死を悼んで泣いています
 あなたの生きている肉体は
 ただ一触で土塊と化してしまった! もう一日とて
 あなたから手紙は来ない 燦然と輝く空想にも
 紙面一杯の暖かな友情ともお別れです されど──扉の彼方では
 今なおクトゥルーが歩み アラブ人は彼の『ネクロノミコン』を読誦する
 そして不死なる旧支配者は輝き続ける!

 ハワード 春爛漫のプロヴィデンスはいかがですか
 森の芝生は 垣根の彼方の野原は
 あなたが足跡を残し 秋の木の葉と塵が今なお散っているところは?
 かくも深き悲しみを言い表せる言葉などありはしない
 信じねばならぬことも心が拒む 塵より生まれて塵へと還る あなたでさえも
 長き道程を経て死へと至った されど心は信じ続ける 精神はあなたと共に
 この身に残された時間はずっと あなたの思い出を胸に抱かずにはいられない

(その心を持つ人などいない、その魂の居場所はその記憶を知る精神の内以外になし!)

 ハワード 今も星々は常と変わらず巡ります
 春が来て枝はたわわです
 あなたが横たわっているところでも──66番地を過ぎ
 あなたを喪った芝生と通りを下って スワンポイントにも春が……


●マーナ氏、スマレ氏、竹岡氏に感謝します。
 さて、わたしは、これから「真田」の最後の追い込みです。くじけそうだけど、頑張ろう。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/09/07

風雲千早城(247)

今日も農耕的に仕事をした。

●やっとこさ「真田」は700枚に達した。
 ストーリーは慶長20年5月、大坂夏の陣にまで至った。
 ふう。……記録を調べたら、書き起こしたのが3月13日。
 あれから実に半年、よく頑張ったものである。
 7月末の発作で、抗痙攣剤が一錠増えてしまったので、
 集中力や思考力ががた落ちしているなかでは、
 良くやってるほうではなかろうか。疲れた、疲れた、
 とこぼしていたら、えとう乱星先生がコエンザイムQ10という自然食品を勧めてくれた。コエンザイムが何かというと、「このサイト」に詳しい。
 ウチのサイトの常連さんではアルケミストさんが、
 さすが薬学部の大学院出ているだけあって分かりやすく教えてくれた。
 もとから体内にあったものなのか。
 ふーむ。元気のモトが減少してたから、
 この10年、執筆スピードは遅くなり、自作を読み返せば自己嫌悪に陥り、
 他の同業者のごとく「『作家』の看板掲げているだけで幸せ、ボクってセンセイらなあ」
 などと暢気に鼻の下を伸ばしていられなかったのか。(←ちょっと違うと思う)
 よしっ、とりあえず、一番安いので試してみようっと。

●いきなり不定期連載、マッシモ・スマレさんの「魔法の町で猫自慢」のお時間です。今日は、イタリアはトリノの町を震撼させた謎の集団のハナシ。…と言っても、流行の、“てろりすと”ではありません。日本が輸出した恥のハナシです。では、スマレさん、どうぞ。

「魔法の町で猫自慢」(第二回)
          作/マッシモ・スマレ

『トリノ忍者都市伝説の巻』

 少し前のことです。
 トリノの新聞「La Stampa」に、こんな見出しが躍りました。


 忍者出現!
 轢くまいと 避けた車、
 車道からはみ出す!!


 これこそが、「トリノ忍者伝説」のはじまりでした。
 それから何日かして、
 トリノの町は黒い忍者集団の話題で持ちきりとなりました。
 たとえば、こんな話があります。
 ──とある丘を車で走っていた若者は、
 うろうろしている黒衣の男に気づき、車を止めました。
 すると、男は、若者の車にずんずん近寄って来るではありませんか。
 若者は用心してドアにロックしました。
 なんといっても相手は黒ずくめの、怪しい身なりだったのですからね。
 すると黒い男はウィンドーに顔を近づけて、こう訊いたのでした。
「卒爾ながらお尋ね申す。拙者、修行中の忍者でござるが、道に迷い、難儀しておりまする。
……つまり、その……ここはどこですかぁ」
 さすがトリノ丘の忍者、素直に己の未熟を認めるあたり、天晴れなものですね。
 別の若者は、ガールフレンドと一緒に車で丘に上りました。お互い良いムードになってきて、
 どちらかともなくキスしはじめたところ、若者は、なんとなく視線を感じました。
「なんだ」 と、外を見てみたところ、
 なんと、まあ!! 車が忍者集団に囲まれていたのです。
 しかも、怪しいヒトたちのリーダーらしいのが、こっちに近づいてくる。若者は、
「なんだ。なんだ。なんなんだ」
 とパニックに陥ってしまいました。すると、リーダーが厳かに曰く、
「ご心配には及ばぬ。我等は忍者でござれば」
(だから、心配してるんだ!!)
 トリノにも物好きはいます。
 ある男は、こんな忍者の仲間になりたくて、彼等の「秘密道場」に赴きました。
(誰でも 赴けるのに“秘密”というあたりがトリノ忍者の真骨頂ですね)
 折りしも忍者たちは手裏剣投げの稽古の真っ最中。
 手裏剣が風を切る音や、板に突き刺さる音が迫力たっぷり響いています。
 男は感動しました。
(ああー、すっげえ! これが忍者、ホンモノの忍者なんだあっ)
 そして、彼は、より迫力を味わおうとそっと近づいていきました。……何を見たと思いますか。
「てやッ」
 と気合もろとも投げる(真似)。
「しゅたッッ」
 と風を切る音(ただし口真似)。
「カンッ カンッ カンッ」
 と突き立つ音(これも口真似)。
 それに気づいた瞬間、男は、忍者になるのをやめたそうです。

 わたしの友人マーナさんは、いつか、この愛すべき「トリノ丘忍者軍団」のエッセイや記事を書きたいらしいです……!」

(以上の文章はスマレさんから頂いたメールを朝松が再構成し、文章に加筆したものです。スマレさん、オリジナルの面白さを上手く伝えられなくて、ごめんなさい)

(六時間後に更新予定)

●明日、テストだという長女に付き合って午後一時半にコーヒーを飲む。
 ついでに、アニメ版「スポーン」第一巻を見た。
 バイオレンスでダークで、濃い内容。
 長女がすっかりハマってしまった。
 なんでも「『真女神転生2』と繋がってるみたい」なのだそうだ。
 ヒーローがニューヨークの路地裏でホームレスたちと暮らしていたり、ワシントンポストの記者が上院議員の秘密を握っていたり、その上院議員は幼児殺害を趣味にしていたり、主人公を始末した「親友」が実はスポーンを殺し、カミさんを寝取り、そのうえ武器の横流ししてたり、さらに幼児殺し癖のある上院議員を大統領にしようとしていたり、とてもアニメと思えぬ「アップ・トゥ・デート」な設定が楽しい。
 この作品を「アメリカ版『デビルマン』」と呼んだ評論家がいた。そいつの名前は忘れたけど、誓って言う、その野郎は物事をパッケージでしか見ないクソだ。おそらく小説も粗筋しか読まないし、漢字の多い文章が「端正な文章」と信じてるに違いない。おっと、クソが何を言ってノタレ死のうが、わたしの知ったことではない。
 スポーンの話だ。
 こうした社会悪と人間悪とを「魔界」の悪に対比させる設定はお見事。
 わたしは、なんだか「ブッシュ伝説」を連想してしまった。
 知ってるかい、ブッシュの周囲には「偶然死んだ政敵」が多いんだってさ。
 こういう設定、わたしは大好きなのだが、「政治的すぎる」ので大体、日本では回避されるようである。
 そして、時空を超越した難解な世界観の作品に流れていくようだ。
 リアリティのある悪役、地に足の着いたヒーローなど、結局、日本の消費者には好まれないらしい。
 ダークSFの社会派、外薗さんに期待しよう。

●さて。そろそろ「真田」を執筆しはじめよう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/08/30

風雲千早城(239)

今日も農耕的に仕事をした。

●昨夜も遅くまで仕事をして、「真田」は662枚まで進んだ。
 空飛ぶ猿飛佐助。爆発する妖気。一太刀で馬を薙ぎ倒す真田幸村。幽体離脱する大久保長安。爆風で四里も吹き飛ぶ三好伊三。地獄の口が開いて東西両軍の兵士を呑みこむ。……
 ようやく、狙っていた「ケレン歌舞伎」の味になってきた。
 戦前、日本のあちこちでは、仕掛けを駆使した歌舞伎が上演された。
 瞬間的な入れ替わり・一人十役・奇術のような趣向・ワイヤーワークによる役者の飛翔などが実にダイナミックに、演じられたのである。
 これは「ケレン歌舞伎」と呼ばれて大衆の支持を得たが、一方、三田村鳶魚をはじめとする「芸術的歌舞伎」一派は、「おででこ芝居」などといってバカにしたのであった。
 わたしは猿之助歌舞伎によって「ケレン歌舞伎」のオモシロさに目覚め、なんとか、このオモシロさを活字に出来ないものかと悪戦苦闘してきた。
 そして、今回、「真田」シリーズによって、ようやく、一つの完成形を読者の皆さんに提示できそうである。
 乞うご期待。

●さて。
 お約束の、マッシモ・スマレ氏の最新作をご紹介しよう。今回は「奇妙な味の短編」である。かの哲学者ショーペンハウエルの言葉に、「蝿を叩き潰しても蝿そのものを消すことはできない。ただ、蝿の現象を叩き潰したばかりなのだ」というものがある。それを思い出させてくれる短編である。なお、スマレ氏が日本語で書かれた原稿に、朝松が必要最低限の校訂と加筆を行なった。ゆえに、この作品の成功は全てスマレ氏の才によるものであり、読みづらいところがあったなら、それは、すべて朝松の怠慢によるものであることを、お断りしておきたい。



 バイ・バイ・フライ!


           作・マッシモ・スマレ

 
 白猫は蝿を追う習慣があった。
 掴んだら、気を失って動かなくなった蝿をその場に放っておくのだ。
 やられたうちの何匹かは、麻痺状態や一時的な恐怖から立ち直り、再び飛び出すことがあったが、大抵はじっとしたままである。
 そのまま、直接あの世に去って行く。完全に忘れられた、小さな存在になって──。

 人間は、蝿の死にどんな影響を受けるのだろう?
 いや、たかが虫けら一匹消えたことで、世界の自然環境にどんなダメージを与えるかとか、どんなカタストロフィーをもたらすかなんて、考えるのも馬鹿げている。
 ……別にぼくは、偉ぶって、ご大層な疑問を自分に問うている訳じゃない。
 ただ、一匹の蝿の死が、ひとりの人間の運命を変えられるかどうか知りたいだけなんだ。

              *

 我が家のテラスに、もう一匹、猫にやられた蝿がいた。
 じっと眺めてみた。すでに死んでるようだった。
 ……すでに遅かった。急がなければ、ぼくは仕事に遅刻してしまう。くだらない思いで時間を無駄にしている場合ではなかった! 
 ところがだ、僕はその場を動けなかった!一歩も動かず、朝の光のもと、虫を見つめていた。
 そして、手を差し伸べて、ゆっくりと蝿に近づいていった。
 せめて小さな葬儀を執り行ってやりたかったんだ。蝿をティッシュ・ペーパーに包んでやって、隣の庭に埋葬してやり、言ってやりたかった。
 ……「バイ・バイ・フライ。今度のライフ、もっとラッキーに!」と……。
 ぼくはポケットからティッシュペーパーを取り出して、慎重に拾った。蝿を近づけて、よく眺めてみた。
 と、蝿が急に微かに動き始めた!
 まず転げ回って横向きになり、そうしてもがいて腹を上にしたのだ。
 円筒状の小さな白いものがうようよ群がっていた!
 目を凝らしてもっとよく見つめたら、小さな白いウジの頭が、捩れて、蝿の腹部から冒涜的に出ていた。
 昼間の悪夢! 
 ぼくは叫んだ。慌ててティッシュを投げ捨てた。右の足でそいつを強く踏んでやった。
 ティッシュに残った赤味がかったシミを一度も振り返って見ず、大急ぎで会社に赴いた。

 夜遅く家に帰った。その日は一日中、ウジのことが頭にこびりついて離れなかった。
 シャワーを浴びて、食事をした。三十分くらい、つまらないテレビを観た後、寝ることにした。ぼくは真っ裸になってベッドに横たわった。天井に目を向けながら電気を消した。
そして──。
 とび起きた。
 腹がちくちくする感じに襲われた。しつこい痛みだった。……黒い天井に白いウジの姿が映っていた! 窓が開けているのに、身体が汗びっしょりだった。まるで消化不良の後遺症みたいだったが、ほとんど食べていなかった。
 痛みが段々増してきた。ぼくの身体の肉が食われているような感覚だ。それも……内部から?! くそ! 馬鹿な自己暗示にすぎないな。……きっと最近の暑さのせいに違いない。二週間前まで、わりに涼しかったのに……涼しくて……みんな、「いつ暑くなる」なんて言って、自分の夏休みを心配していたほどだった。そして、猛暑が来た。いまは、毎日40度近いのだ!
 ああ、痛みが、我慢できない……。
 また、痛くなってきた。
 口から弱々しい悲鳴が洩れる。
 腹に触ってみた方がいいんだろうけど、こわくて出来ない。
 とってもこわい。
 朝見たあの円筒状をした恐ろしい生き物の、脈打つ塊を握るんじゃないか、と怖い。
 ぼくは強迫観念にとらわれているのか?! ──自分の腹にもウジがいると。
 電気をつけなくては。だが、そんな単純な行動さえも怖かった。
 ぼくは、まるで恐怖の凝縮物になってしまったようだった。
 頭の中が白いウジに生きたまま食われた蝿のことでいっぱいで、ぼくの胸は、燃えるような恐慌にますます締めつけられた。
 何を言ってるんだ、馬鹿な! もう、いい。下らんことを考えるな。今すぐ電気をつけて、腹がどうなっているか、何が何でも確かめるんだ。
 ……そう言ってるうちにも、激痛が腹をひどく苦しめる……。

 ぼくは、電気をつけた。

 朝の空で灼熱の太陽がさんさんと輝いていた。
 ぼくの周りに柔らかい、白い物があった。腹部に鋭い痛み。
 おかしなことに、全てのものが、ぼくの目の中で百くらいの映像だった。
 砕けているみたいだった。
 驚いている時、一つの影が日を翳らせた。
 ……靴底が近付いて来る……!!


「バイ・バイ・フライ。今度のライフ、もっとラッキーに!」。

(了)

2004年4月7日 作品


●スマレさん、有難うございました。
 次回作に期待します。

 朝は曇って寒かったのに、昼すぎから急に暑くなってきた。
 わたしは池袋へ。
 幻冬舎コミックスのI藤氏と打ち合わせ。いよいよ、この春から秘密裏に進んでいた「旋風(レラ=シウ)伝」の全貌が明らかに(??)なるのだ。どんな志波新之介なのだろう。どんなシケムなのだろう。どんな仙頭左馬之介なんだろう。わくわくするなあ。独自の世界観をスケール大きく描くことで定評のあるヒロモト森一氏だからなあ。楽しみだなあ。
 なお、より詳しいことが決まったら、発表できる範囲内で、今後、この「風雲千早城」で発表いたします。

(六時間経過)

●池袋に行ってきた。
 吹き飛ばされそうな強風だった。
 蒸し暑かった。
 今にも嵐が来そうな天気だった。
 それでも、わたしの気分は爽快きわまりなかった。
 「旋風(レラ=シウ)伝」の打ち合わせをして、ヒロモト森一さんのラフと「次号予告」イラストが見られたからだ。
 一言で言って、「旋風(レラ=シウ)伝」は、「ヒロモト森一の」というアタマ書きがつくべき作品になりそうだ。
 つまり、原作の世界観を生かしつつ、もっと「やんちゃ」な新之介、「悩む」新之介、「壁を乗り越える」新之介が期待できそうなのである。
 さらに原作のエピソードを遡る、という発端も見逃せない。
 悪役連中も、仙頭左馬之助・黒田清隆、賞金稼ぎ・あらくれども、どれもコマから立ち上がりそうな迫力である。
 作者の「蒸気と鉄の魔神」という「近代化」のイメージをヒロモト氏は見事に視覚化してくれるようだ。
 まったく新しい「旋風(レラ=シウ)伝」は、インターネット・マガジン「GENZO」で10月よりはじまる。
 (諸般の都合で9月から繰り下がった)
 どうか、楽しみにして欲しい。
 詳報は今後も随時、お届けする。

●午後6時すぎに帰宅。コーヒー。アンパン。チョコレート少し。

●疲れたので、少し、休む。執筆は、それから再開。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/06/29

風雲千早城(178)

今日も農耕的に仕事をした。

●昨日は夕方に光文社のK林氏から電話、「一休の念校のゲラが出たのですが、まだ少し確認したい箇所がありまして」とのこと。早速、午後8時半にサンデーサンで待ち合わせ、ゲラの最終チェックをした。1時間あまりで終了。これで一休はつつがなく7月発売となった。

●そういえば、昨日は昼過ぎに早川書房のA部氏(愛媛県出身・広島大学空手部卒)からも、久し振りに電話があった。ずっと前から約束している伝奇時代大作のアイデアはまとまったか、という質問。中世神話をバックボーンにした作品で、室町末が舞台。史上に名を残す三派が天界の代理戦争をする、という構想やイメージを話した。来週打ち合わせの約束。

●昨日は「デアデビル」の他に、「リーグ・オブ・レジェンド」を長女と鑑賞。色々言われている映画だが、わたしは好きな作品である。東京創元社のM原氏によれば、新作「バン・ヘルシング」の感触は「リーグ~」に似ている、とのこと。いよいよ「バン・ヘルシング」が楽しみになってきた。

●休む、休む、と言いながらも、どうにも気になって「真田」を三枚だけ書き足した。だって、前半で一番書きたいシーンなんだもん。ひょっとすると、わたしは今、乗っているのかもしれない。

●さて。
 それでは、お約束の作品をご紹介しましょう。イタリア人作家・翻訳家、マッシモ・スマレ氏の幻想小説「翻訳家と女神」です。スマレ氏は日本語で書き上げた作品を今回、一太郎で送信してくださいました。魔法の町トリノの幻想家スマレ氏の作品を、お楽しみください。そして、是非とも御感想を「懺悔の間」(BBS)に書き込んでください。どうぞ宜しくお願いします。

******************************************************************************

翻訳家と女神

マッシモ・スマレ

 翻訳家は黒い画面のモニターの前に、片手の指をパソコンの電源ボタンに置いたまま、ずっと座っていた。
 自律神経が破裂するほどの緊張が彼の全身を駆け巡ってていた。/安楽いすにうずくまった白猫がうとうとしながら、時折、翻訳家に好奇心たっぷりな眼差しを向けていた。隣の女性が飼っている猫であった。軒蛇腹を通って彼のアパートの窓から時々忍び込んでくるのだ。
 真夏の夜であった。うだるような暑さがアパート中に染み込んでいた。四階の部屋の開いた窓からは、一つの音も入ってこなかった。……何処か変だった! さっきまでパトカーのサイレンや、酔っ払いの騒ぎや、車のブレーキの軋りなどが、外から窓へとなだれこみ、思わず怒りの叫びをあげたくなるほどだったのに。……何処に行ってしまったんだ、!
 今、雑音は全く違う次元と時代の遠いこだまとなってしまったかのようだ。
 世界に残っているのは彼とパソコンだけ……パソコン……そして、この非現実的な沈黙。
 すべては数時間前に始まったのだ。だが、いつから? それはこの異常の中にいる彼にも分からなかった。

        *

 彼はノルウェー英雄物語【サガ】の翻訳を依頼されていたのだが、まだ完成させていなかった。それは遙かな北の国々の学者も知らない古い原典であった。
 そのような作品の翻訳をするのはもちろん初めてではなかった。彼はプロ翻訳家だったのだ! いまだに年金生活を拒み続ける黄ばんで乾燥した皺だらけの教授や、ただ受験のためだけに理解もせず暗記するニキビだらけの学生以外には、世界中の誰も興味がない原文の、プロ翻訳家だった!
 とにかく、ひどく難しいので、今回、先延ばしにしていた仕事だった。
 だが、もう時間はなかった。その翻訳のギャラはなかなか良く、彼には金が必要だったのだ。さあ、頑張ろう!
 パソコンの電源ボタンを押して、仕事の準備はすべてOKだった。キカイ野郎は、相変わらず年金暮らしのトシヨリのようにぶつぶつ文句を云い、W■■■■■S OSを動かし始めた。不可欠な、不可解な文字が幾つも浮かび上がり――アラブ語を理解するのはもっと簡単だぞ!――、
 そして……
 正にそのときだった。
 ほんの一瞬だったが、彼は確かに見た! 黒い画面の真中に、色褪せた、不明確な姿を……。
 それは女だった。
 ……だが、すぐにパソコンは煩いショーを見せ始めた。やがてモニターには、ありふれた熱帯の壁紙が浮かび上がった。
 気のせいさ。
 辞書を引いたり、パソコンにずっと向かっていたので、目がどうかしたのに違いない……。
 彼は文章をコンピューターに直接入力して翻訳し始めた。すでに準備段階を終わり、原文のコピーにボールペンで良く分からなかった言葉の意味をメモしていた。数多くの不明な個所の原典で、「部族復讐」と、今まで聞いたことがない、奇妙な女神の出現に関わるものだった。
 一ページが出来たとたん、急に、画面で見た女を思い出した。
 幻覚なのか?……もう翻訳に一切うちこめなくなっていた。  
 糞!……確かめずにいられなかった。マウスでカーソルを<スタート>ボタンに移動し、クリックし、<再起動>を選択した。コンピューターは一時消えてから再び作動した。現れるのはまた音、文字、それから今度もっと明確な、さっきの姿……

 スタート、クリック、再起動、音、文字……姿……熱帯の壁紙……
スタート、クリック、再起動、音、文字……姿……熱帯の壁紙……
スタート、クイック、再起動、音、文字……姿……熱帯の壁紙……
 スタート、クリック、再起動、音、文字……姿……熱帯の壁紙……
スタート、クリック、再起動、音、文字……姿……熱帯の壁紙……

 パソコンの時計をあわただしく見て、もう五時間も経っていることに気がついた。かすんだイメージは再起動のたびに益々輪郭がはっきりとしてきた。「はっきりとした」だって?!……なんて遠まわしな言い回しだ!確かなことは、浮かんだのが女の姿だということ、ただそれだけ。すばらしく美しい全裸の女。見事な、完璧な乳房。滑らかで柔らかな太股。まるでヒロイックファンタジーの本のイラストに出る美女とそっくりじゃないか……ところが、彼女の顔立ちや、肌の色などは全然見分けられなかった。漆黒のアフリカ人の女性だったのか、雪花石膏(アラバスター)の肌のモンゴル人だったのか、銅のような色の肌をしたインド人だったのか。それどころか髪の色さえ見分けることが出来なかったのだ……金髪か、黒髪か、茶色か、金色だったのか。

 彼はこのセックスの象徴のような女神を見て、すごく興奮していた。なにしろ、これまでに繋げて見たエロサイトのどんな写真よりも素晴らしかったのだ!動物的本能に促されて次のイメージの出現を待ち、手はひっきりなしマウスの左ボタンを連打していた。
 翻訳家の中では潮が満ちるように益々興奮がいや増してきた。
 ……やがて彼は見た……女神がの背後に隠していた、蛮族風の輝く大きな剣を。どんなに色調を変化させたとて一定の、底知れない深みを湛えた瞳を。サタンを倒した瞬間の、大天使聖ミカエルの眼差しを。主に挑戦した瞬間の、明けの明星ルチーフェロの眼差しだ……彼は若い時に読んだ、有名なホラー作家の本を思い出した。いつも陳腐と感じた、あの作家の「名状し難い暗黒であった!」という文章を思い出していた……けっして陳腐な言い回しなんかじゃなかったんだ……
 女は彼の胸元に剣を突きつけた。翻訳家は恐怖と不安を覚えた。女はゆっくり、ゆっくりと近寄ってくるというのに、彼は絶え間なくパソコンを再起動させていた。悪魔に取りつかれたような右手を止めることは無理だった。流れ落ちてくる汗で頬が濡れていた……

スタート、クリック、再起動、音、文字……女……熱帯の壁紙……

スタート、クリック、再起動、音、文字……女……熱帯の壁紙……

スタート、クリック、再起動、音、文字……女……熱帯の壁紙……

スタート、クリック、再起動、音、文字……女……熱帯の壁紙……

スタート、クリック、再起動、音、文字……女……熱帯の壁紙……

 剣先は容赦なく彼の胸に近寄っていた。今や、刃の上に彫刻された──人間には到底作ることが出来ない──綺麗な嵌め込み細工さえはっきりと見えた。武器は間違いなく翻訳家の胸を狙っていた。心臓が血と苦痛の海で裂かれる予感。……怖い、怖い、怖い……
 色変わりする女の微笑が美しい。レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」のより謎を秘めた微笑だった。無限の天国か、底なしの地獄を約束する微笑み……たぶん後者だ……恐怖、恐怖、恐怖。刃はそこまで迫っていた!
 あと一度の<再起動>で……。
 翻訳家は生まれて初めて懸命にすべての神々に祈った―─御名だけ聞いた神さまにも祈った……
 突然、白い影が素早く、眼前を横切った。
 男は画面に集中していた精神を、瞬間的に、散らした。
 猫のプリックだった!
 天から与えられたチャンスを捕らえて男は右手に全力を集中した。
 非人間的な緊張で<シャットダウン>が選択出来て……パソコンは金属的な音を立てて消え、モニターは真っ黒になってしまった。
 沈黙に囲まれていた。助かった!

 翻訳家は、冷蔵庫からビールの缶を一本取り出して一気に飲んだ。ベッドに寝そべってみたが、まったく眠れなかった。
 畜生、あの翻訳をし完成させなければならない! しかし、もしコンピュータに電気をつけたら……彼女はきっとまたそこに現れる!
 パソコンなしでやるのは無理だ。絶対、〆切に間に合わないだろう……。
 糞! どうでもいいさ。あの仕事をしなくても、電気代、家賃なんて何とかなるだろう。
 しかし、あの女の瞳は……翻訳家はベッドから起き上がり、部屋を歩き回り始めた。ナイト・テーブルの引き出しからAVビデオを取ると、テープをデッキに入れた……これだけははっきりと言えた。ビデオの女優たちなんて、「彼女」とは比べ物にならない……「彼女」は……「彼女」は、本物の女神だったのだ!

        *

 片手をタワーの電源ボタンの上に置いたまま、彼は四十分以上前からパソコンの前にずっと座っていた……恐怖に囚われてはいたが、同時に彼女に再びまみえる欲望に燃えていた。刃で殺されるか?……いや、違う。ひょっとすると、危機一髪の時に何か奇跡のようなことが起こって女神と結ばれるかも知れない……
 ……電気をつけるかつけないか、つけるかつけないか、つけるかつけないか……。
 白猫は不可思議な目で男を静かに眺めていた。

 翻訳家はボタンを押した。クリック。モニターが輝いた。音、文字、女神……。
 白猫は自分の家に帰っていった。


Torino, 2004/6/26

*******************************************************************************

●今日は一日、「真田」の続きを書き続ける。さて、どこまで書けるかな。では、六時間後にまた会いましょう。

(で、本当は3時間半しか経過してないんだけど)

●「懺悔の間」で松村さんにお詫びしたのだけれど、せっかくアップロードしようと用意していた画像が一枚残っているので、コソッと入れときます。興味のある方はクリックしてみてね。「涼しげ~」な画像です。……てもないか??

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004/06/13

風雲千早城(162)

今日も農耕的に仕事をした。

●健康に良いし、お釈迦様もそうしていたというので、わたしは、ずっと枕を北に向けて寝ていた。ところが最近、風水の本を読んだら北枕は金運が悪くなるという。
「そうか。ウチにお金が貯まらなかったのは北枕のせいだったのか」
 と、突然思い立ち、南に枕を向けることにした。
 ついでに気分を変えようと、昨夜は息子と枕を並べて寝ることにした。開け放したベランダから風がこころよく、リラックスして眠ることが出来た。
 お陰で、午前10時30分まで眠ってしまった。これでお金が貯まるだろう、と思っていたら、妻の自転車のタイヤを変質者がカッターでズタズタにしてた。
……タイヤ代と修理費がかかるではないか。早くも南枕による「招福」は暗礁に乗り上げたのだった。

●それでも精神を集中して仕事。角川春樹事務所用の書き下ろし長編のプロットをきり続ける。久し振りの大長編の予感。春樹氏も社会復帰したことであるし、なんとか相談して、全4巻か全5巻でやらせてもらおう。各巻の間を三ヶ月と置かない、と約束したら、きっとやらせてくれるだろう。
 (来年は文庫に下ろしてもらえる作品が幾つかありそうだから、大丈夫だとは思うのだよね)
 …もっとも、ここ何年か、「絶対大丈夫」「万端おこたりなし」という話が、何度となく直前でひっくり返って、どんどんキビシいことになってきたのだから、安心はできないが。まったく人生にも、カッターが潜んでいて、せっかく上手く行ってる道をズタズタに切り裂いてしまうのだ。この48年間は、まさに、このカッターとの戦いだったような気がする。

●本日(6月13日)の東京新聞に「ニッポンの空気」というコラムの連載が始まった。見出しは「『加害者』に映った家族会」「批判の矛先 政治が演出」。
「(前略)……首相と家族側との面会の取材は当初、冒頭だけとされていた。だが、直前になって急きょ全面公開に変更された。家族側には何も伝えられていなかった。「予想した中で一番悪い結果」「プライドはおありなのか」。面会では、家族側から首相に厳しい言葉も飛んだ。首相は険しい表情で「すべての責任は私にある」と答え、面会のもようはテレビ中継もされた。支援団体「救う会」事務局に家族らへの批判が届き始めたのは、その夜からだった。批判の電子メールは十日間で約千六百通。電話も鳴り続けた。「首相への謝意がない」「失礼だ」…(中略)…世論調査の結果に合わせるかのように、首相訪朝をもっと評価すべきだとする声が議連メンバーから出始め、家族会批判まで出た。「与党側から『小泉首相を守れ』という指示が出たと聞いた」と議連関係者は打ち明ける。…(中略)…「総理が被害者になり、被害者が加害者になってしまった」。救う会関係者は振り返る。この関係者がふと連想したのは、かつての「抵抗勢力」と「イラク人質事件」だった。性質はそれぞれ異なるが、自民党内の小泉批判者は抵抗勢力のレッテルを張られ、人質事件では、政府に声を荒げた人質の家族や、人質本人への激しい非難が巻き起こった。…(中略)…周囲が危ぐする中、面会直前に全面公開に切り替えたのはほかならぬ小泉首相。その結果を受け、官邸関係者は首相を絶賛した。家族会から批判され、耐えている自らの姿を国民に見せることで、世論の支持を得る流れを作った、との評価だ。政治リーダーの判断一つで、人々の好悪の感情がどこまでかきたてられ、世論に影響したのか。救う会の西岡力副会長はこう話した。「アメリカでは世論をパブリック・オピニオンズと複数形で使うことがある。でも、日本ではもっと一元的。多様な『世論ズ』ではなく、あくまでも『世論』なんじゃないか」イラク人質事件で噴出した自己責任論。統治機構よりも生身の個人に重圧がかかる奇妙な空気が日本を覆った。その奇妙な空気はなおも濃度を増している。…(後略)…」

●「………」な気分の時には「ケイトさん通信」をどうぞ。今日のケイトさんはとても嬉しそうですが、何かイイコトでもあったのでしょうか。それでは、ケイトさん、お願いします。

「だごん様こんばんは、ケイトです。
今日、家に帰るやいなや、真っ先にアグたんのもとへ駆けました。何故なら――
私「アグたんアグたんアグたんっ!!」
アグ「わっ、ど、どうしたの? ケイ…」
私「じゃーんっ!!」
手に持った本、それは……
アグ「ケイトぉ!」
私「えへへー、とうとう手に入れたよ~」
アグ「ケイト、おめでと~」
アグたんは、眼をかがやかせて喜んでくれました。

JewelSongs.jpg

 ――実は先日、某オークションをのぞいていたら、あったのです! 『背徳の召喚歌』が!
 自分で入札は出来ないからなにげにやってたキーワード検索なのに、まさかこんな棚ボタ式に見つかっちゃうとは想わなかったので、そっこー友だちに電話して頼みました。
 御加護もあってか無事に落札でき、そして今日。ようやく届いたそれを確認し、抱き締めたら――

♪ターーーラララララララッタララーーーー……

 きっ、聞こえる!! ボレロが聞こえ(以下、いつものアレ)
 帯が着いた初版の状態でリアライズしてくれるなんて、とってもウレシイです♪ 友だちのKくんにも感謝! 
 これでまた、コンプに一歩近づきました。
 永かったです…。
 でも、進んできた道の先に、光を見た…!
 これからも追い求めていきます。オレたちゃがんばるぜー!!(←「オレ」…?)
 そして写真は、早くも本の世界へ遊びに行こうとしているアグたんのしょっとです(笑)。……年齢制限の方、大丈夫なのかしら? しかも中味は「おたんびぼん」。
 ………。
 待てっ、アグたん早まるな! そんな若いみそらで(←もう必死…)

 ではでは、だごん様、そしてこの世ならざるもののお導きに、深く感謝しつつ……。

けいと あぐもん」

●訂正
「風雲千早城」(160)で、イタリアの翻訳家マッシモ・ソマレ氏が、「秘神界」英語版に携わるエドワード・リプセット氏の友人である、と書きましたが、正確には、ソマレ氏の友人のダヴィーデ・マーナ氏とリプセット氏が友人でした。ソマレ氏はマーナ氏を介してリプセット氏と知己なのだそうです。ここに訂正して、お詫びします。

●それで。…実は、ダーヴィデ・マーナ氏がクトゥルー・ファンと聞き、同氏へも、わたしは(恥知らずにも)メールを送信したのでした。さて、それでは、マーナさんとはどのような方かと申しますと、ここにソマレさんから頂いたデータがあります。ちょっと、ご紹介しますね。
 
 「●Davide Mana 
 ダーヴィデ・マーナ(1967年)。微小古生物学士号を得、翻訳者、英語教師(その上、プログラマー、コールセンター・オペレーター、ウェッブ・デザイナー、“人間案山子”など)の多彩な仕事を青年期より経験したが、現在、トリノ大学でフリーランス・微小古生物学士コンサルタントとしても働いている。マーナ氏は多くのRPG協会やlovecraftian clubのメンバーで、同時に「The Whisperer」、「The Black Seal」、「D20 Weekly」、「Delta Green:Countdown」(Pagan Publishing, 1999)というアメリカ雑誌に記事をよく寄稿する。イタリアでは、LN-LibriNuovi誌の協力者で、その雑誌のため、SFに関わるエッセイを数多く執筆した。「web-portalepalaeontology.com.」の科学担当者でもある。英国のエリザベス一世時代文学や東洋文化に深い興味がある作家。代表作は:

- Non Solo Robot (Giganti) - La fantascienza nel fumetto e
nell'animazione Giapponese, Klaatu, 1993
- L'Impero Colpisce Ancora - Note per una bibliografia steampunk,
Klaatu, 1994
- In Memoriam - Peter Cushing, Klaatu, 1994
- Robert A. Heinlein - Forse No, Klaatu, 1995
- PISCES - in "Delta Green: Countdown", Pagan Publishing, 1997
- Italian Law Enforcement - in "Delta Green: Countdown", Pagan
Publishing, 1997
- A Landscape of Stones and Barrows, 2002, TBSM n.1, "The Black Seal
Magazine", Bricester University Press
- The Avengers, 2003, TBSM n.2, "The Black Seal Magazine", Bricester
University Press
- Anelli mancanti - La Spada Spezzata, LN, 2003
- IL Futuro non e’ piu quello di una volta, LN, 2003
- Sia Maledetta la Citta, LN, 2003
ノベルズは:
- The Ghost of the 53rd Wing, Delta Green Mailing List, 1998
- Alice in Dreamlands, Granpa Theobaldus Tales for the Little Young'uns
project, 1999
- Dream Reaper, 2000
- Without Intent, Kurotokage, 2000
- Un Fil di Fumo - Una Storia di Cowboy, Alia, 2003」

 ソマレさん、どうもありがとうございました。

●さあ。それでは、これから「異形」の短編を書き始めよう。では、今日は、これにて御免。

| | コメント (0) | トラックバック (0)